2023年10月05日
『令和の米騒動』を考える
中日ドラゴンズ「令和の米騒動」は
なぜ大きな話題になったのか?
「スパイ映画のような描写」の新聞報道から
感じた“立浪和義監督の苦悩”
《10/2(月) 17:02配信 Number Web》

来季は勝負の3シーズン目を迎える
中日ドラゴンズの立浪和義監督
photograph by JIJI PRESS
中日ドラゴンズの立浪和義監督
photograph by JIJI PRESS
セ・リーグは阪神、パ・リーグはオリックスが優勝。さぁクライマックスシリーズはどこが上がってくる? というのが9月のプロ野球でした。一方でそうした風景とは別に注目してしまう球団があった。中日ドラゴンズです。なんといってもアレです。阪神の優勝ではなく「令和の米騒動」のことだ。
8月下旬以降、中日は好事家たちの視線を独占していたと言ってもいい。我が「月刊スポーツ新聞時評」としてもスルーできない。では報道の経緯をおさらいする。夕刊フジが8月23日に報じた「令和の米騒動」は立浪和義監督が突如、炊飯器を撤去し白米の提供を禁じたというものだった。細川成也外野手が夏場に入り調子が落ちてくると、
《「立浪監督は『ご飯の食べ過ぎで動きが鈍くなったからだ』と考え、改善策としてご飯の準備をやめさせた。そうしたら成績がまた上がってきたから、他の選手も…となった」とチーム関係者。》(夕刊フジ)
しかし絶対的守護神のライデル・マルティネスの抗議により投手陣のみ翌日から提供が再開された。
夕刊フジは「この時代に白米がしっかり食べられないなんて夢にも思わなかった。しかも、同じチーム内で食べられる人とそうでない人がいる。もはや『令和の米騒動』ですよ」という選手のコメントを載せた。この時期の中日は「64年ぶり敵地13連敗」の頃であり、選手たちに元気がないのは令和の米騒動のせいかもしれないという。
心を掴まれた「スパイ映画のような描写」
この記事が話題になって夕刊フジは張り切ったのか9月になって続報を載せた。それが
『中日「令和の米騒動」終息せず』『”おいしい発注ミス”でカレーライス解禁も1日限り』(9月12日付)である。
小さなおにぎり以外の米飯を禁じられたまま1カ月が経過とある。しかも野手だけでなく球団フロントや裏方のスタッフまで。私が食い入るように読んでしまったのが次のコメントだ。
「球団幹部がおにぎりを何個かどんぶりに入れ、その上に牛丼の“アタマ”を乗せて食べているのを見た。おにぎりを何個も食べていると監督に密告されかねないので、1個ずつロッカーに持ち込んでから味噌汁と一緒にまとめて食べる用心深い選手もいる」(ある選手)
思わず息をのむ。スパイ映画のような描写にドキドキした。
そしてこの間にあったのが“発注ミス”事件(8月22日)。普段と違う球場(京セラドーム大阪)のためかケータリング業者に立浪監督の指示がちゃんと伝わってなかったようで「全選手にカレーライスが提供された」という。なんという奇跡。この日は阪神相手に延長10回サヨナラ負け。もし勝っていたらゲンを担いで翌日もカレーが出たのでは? とも。よく読むとこのエピソードは約1カ月前の話なので令和の米騒動記事が話題になって気を良くした記者がさらに聞きこんでいたのであろう。
なぜ「令和の米騒動」はここまで騒ぎになったのか?
というわけで「令和の米騒動」をまとめてみたが、ここまで騒ぎになったのは「立浪監督”得意のトップダウン”」(夕刊フジ)の象徴としてわかりやすかったのではないか。同時期に高校野球では自主性を重んじた慶應が優勝したことで、逆にプロの中日がこんな感じ? というギャップも感じさせたのだと思う。
さらに言えば、ずっと監督待望論があった立浪氏がいざ就任したら「なんか思ってたのと違う」というギャップも効いているはずだ。これは生え抜きのスターが当然のように監督になるという日本の監督システムが変わる潮目なのかもしれない。
とは言え、私は今シーズンの立浪監督に期待していた。注目していた。昨年の10月31日にNHK・BSで『逃げるな 泥にまみれても~中日ドラゴンズ監督 立浪和義~』という番組を見たからだ。
NHK名古屋が立浪監督に昨年密着したドキュメントだったが、見終えて一番感じたことは「令和の時代に戸惑うスター」であった。昭和に鍛えまくられたスターが指導者となって自分の若い頃と同じことを今の選手に求めると苦戦する。時代に合わせていかにアップデートしていくのかという「おじさんの葛藤」がテーマだと感じたのだ。これはプロ野球に限らずどのジャンルでも同じだろう。夏場を過ぎてようやくチームに活気が出てきて、来季は若手が楽しみだと思わせて番組は終わった。
しかし2023年の立浪監督も苦戦している。私は令和の米騒動報道も消費しつつ、一方で「ここからどうする立浪監督」と、同じおじさんとしてどう成長していくのか注視している。とても気になる存在なのである。
それでもドラゴンズ人気の理由
朗報と言えるのかもしれないのはこれだ。
【中日】最下位なのにバンテリンドームは超満員 観客動員大幅増のワケ(東スポWEB9/17)
記事ではチーム成績が悪くても立浪竜が人気の理由として、
「実はファンクラブの会員で10代後半から20代後半の人が増えているんです。高橋(宏)や石川(昂)、岡林ら地元出身の若い選手たちが活躍していることで同世代の人たちの関心が高まっているのでは」
という球団関係者の分析を載せている。
立浪中日とすべての“迷えるおじさん管理職”へ
さて立浪監督の来季の続投が早々に発表された。来年はどうなる。こういうときは東京中日スポーツのコラムを読むに限る。「渋谷真コラム・龍の背に乗って」9月16日分を紹介する。
まず立浪監督の2年間について、
《ほぼ全てのファンが落胆している。そして、3年目への不安は色濃く残ったままなのである。》
ではどうすればいいのか。
《最初にやるべきことはミスタードラゴンズの看板を自ら下ろすことだと思う。通算2480安打。優れた技術と実績に裏打ちされた理論がある。しかし、たとえ正しいことであったとしてもそれを選手もできるかどうかが別問題なのは、この2年間が証明している。》
その上で、
《上に君臨するボスではなく、前に立ち、導くリーダーになってもらいたい。それが結果を出す組織の主流となっているのだから。》
厳しい言葉だ。しかし立浪を見続けてきたトーチュウしか言えない言葉である。
そしてあらためて思うのである。中日は若いファンが増えているというが、迷えるおじさん管理職の人がいたらぜひとも立浪中日を見たらよいのではないか? と。新しい時代の流れに苦闘する監督の姿から共に学べる要素はたくさんあると思うのです。
以上、9月の月刊スポーツ新聞時評でした。
(「月刊スポーツ新聞時評」プチ鹿島 = 文)
カテゴリー=ドラゴンズ
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